2024年5月1日に、韓国において、「商標共存同意(コンセント)制度」が施行されたことはあいぎHPの方で先日お伝えしたとおりですが、運用開始後4ヶ月(2024年5月~8月)で、本制度の利用件数が447件に達したことが、先ごろ韓国特許庁から発表されたとのことです。
施行後4ヶ月で447件という数字は、多いのかどうなのか。少なくとも、韓国特許庁としては、この数字が、期待通りまたはそれ以上だった、と評価しているということですね。施行後わずか4ヶ月の段階で利用件数を発表するとは、韓国特許庁はなかなか広報に積極的という印象を受けます。
韓国においてコンセント制度の利用が多いのには2つの理由があると考えられます。
韓国では、施行日以前に出願された出願でも本制度を利用可能とする経過規定が設けられたため、審査段階のみならず、公告段階、審判段階等の出願においても利用が可能だったことがまず一つの理由でしょう。
もう一つの理由は、韓国のコンセント制度が、「完全型コンセント制度」であるということ。
コンセント制度と一口に言っても、「完全型コンセント制度」と「留保型コンセント制度」の2つの類型があります。「完全型コンセント制度」とは、他人の先願登録商標と類似する商標が出願された際に、当該他人(商標権者)の同意があれば、更なる審査を経ずに登録を認めるという制度であり、「留保型コンセント制度」は、商標権者の同意があったとしても、出所混同のおそれがあるかないかが更に審査され、出所混同のおそれがあると判断された場合には、登録されない、という制度です。韓国の施行日より1ヶ月早い今年4月1日にコンセント制度が施行された日本は、後者の「留保型」を採用しています。導入前の日本国特許庁の資料によれば、コンセント制度を採用している他国でも、「留保型」を採用している国の方が多いそうです。
日本では、特許庁から、コンセント制度のその後の利用状況等は発表されていません。制度の適用があるのは、2024年4月1日以後の出願のみですので、現在、それらの出願がようやく審査段階に達した頃で、未だ利用状況を発表できる段階ではないと思われます。
また、日本では「留保型コンセント制度」が採用されたため、先行登録・出願と類似するという拒絶理由通知を受けた場合は、同意書の提出と共に、その先行登録・出願との関係で、出所の混同のおそれがないことを示す取引の実情を説明する書類の提出が必要です。改定後の審査基準によれば、出所の混同のおそれが生じないと解釈される場合として、なかなかない状況が例示されており、しかも、その状況が査定時のみならず、将来に亘っても続くことを特許庁に対して説明する必要があるのです。
このため、待望のコンセント制度の導入ではあったわけですが、日本では、改正審査基準を見る限り、実際のところ、なかなか利用のハードルは高そう…との印象です。今後、実例が積み重なるのを期待したいところです。
韓国の話に戻りますが、「完全型コンセント制度」ではあるものの、先行登録・出願の権利者から同意書を取り付けたものが、4ヶ月という短期間に447件あったというのは、多い…と考えてよいのではないでしょうか。先行登録・出願の権利者からしてみれば、後願の登録に同意したところ、その後の後願権利者の商売次第では、将来、自分の事業が脅かされる事態となる可能性もあるわけですから、なかなか交渉は難しそう&時間もかかりそうですが…。施行前の出願にも適用があるということで、施行を見込んで、審査官に査定を待ってもらっていた出願も少なからずあったのではないか…とも思えます。
(参考)
ジェトロ 知的財産ニュース 2024年9月19日
「韓国の商標コンセント制度、今年5月施行以降4カ月間の利用件数が447件」
「コンセント制度の導入」
産業構造審議会知的財産分科会 第9回商標制度小委員会
令和4年9月29日
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